エンジニア採用がうまくいかない会社に足りないもの
過去様々な会社の選考を受けさせていただき、また選考を行う側も経験させてもらいました。
そんな中、昨今『エンジニアの採用が難しい』というテーマを目にすることが増えてきました。
ただ個人的な経験からすると『エンジニアの採用が難しい』というのは同意できる部分もあれど、一方で『そんなことないんじゃないか?』と思う部分もかなり大きいです。
ということで、今回はエンジニアの採用について、エンジニアとしての個人的ないち考えを書いていこうかなと思います。
久しぶりに長文になりそうなので、まずはアジェンダです。
- 採用は最終手段である
- スコープは狭く深く
- プロダクトに本気で取り組んでいるか
- 自社開発だから良い、ではない
- 理念よりも、具体的な課題への向き合い方
- AI 時代のエンジニアに求められるのは創造性と判断力
- スクラム開発は前提だが形骸化していないか
- IPO は手段であり目的ではない
- 採用とは“選ばれる行為”である
- 平均勤続年数や単価を誇っても刺さらない
採用は最終手段である
「人が足りないから採用を強化する」というアプローチを安易に選択しがちな現場って多い印象があります。
スクラムの理念にも書かれている通り、人を増やすというのは最終手段であって、最初に取る手段ではありません。
とくに日本の場合、正社員の雇用となると終身雇用になってしまうため、海外と比較すると非常にリスキーな選択を取っていることを自覚する必要があると思います。
だからといって業務委託や副業、インターンを選択すると、円滑なコミュニケーションや会社としての成長率が長期的な課題として挙がってきます。
採用と一口に言っても、会社の状態やフェーズなど、様々な始点から多角的に判断したうえで行うべきだと思いますが。
時々見かけるのは、例えばチームとしてのパフォーマンスが上がらないから採用で解決しよう、といったケースが存在します。
が、こういうケースの場合、まずプラス(採用)を行うのではなく、まずマイナスを行う必要があるほうが多いよなと。
ここではマイナスの内容については言及しませんが、状態が良くないのであればその状態に至った要因を究明し、それを解決するためのマイナスを行い、その上でプラスを行うのが正しいアプローチかなと。
マイナスを行うというのは、いわゆる出血を伴うカイゼンになるかもしれません。
しかし我々はなんのために働くのか、会社はなんのために存在するのか。
エンドユーザーに高い価値を素早く提供するために存在しているわけで、手段と目的を履き違えないことが重要だと思います。
スコープは狭く深く
たまに「テックリード募集!」みたいな記事を目にしますが。
募集要項を確認すると、チームビルディングもプロジェクトマネジメントも開発も育成も全部お願いします!みたいなことが書かれていてビビります。
ましてやその内容を踏まえて、まるで裁量が大きいかのごとく書かれていて非常に驚かされます。
会社に足りないピースが存在し、それが育成ではどうにもならない、そういった場合に必要な人材を集める、これが中途採用だと思うのですが。
スコープをめちゃくちゃ広く募集しているということは、この会社にはなんもかんも足りないということに他ならないわけで。
一体どういった勝算の元、会社を経営していこうと思ったのか、個人的には強く疑問が残ります。
人一人ができることなんてせいぜいしれているわけであって、そんなスーパーマンのようなヒトはそうそう市場に存在しません。
フロントエンドエンジニアとバックエンドエンジニアにように、各々スコープが明確に分かれているからこそ円滑な開発が行えるわけです。
フルスタックエンジニア募集!とかフルサイクルエンジニア募集!みたいな募集記事も多いですが、本当にあなたの会社に必要な人材はそうなのか?
しっかりとピースを埋める最適な求人をかけることが重要だと思います。
プロダクトに本気で取り組んでいるか
本気でプロダクト作りをしているのか、個人的に非常に重要だと思っています。
会社って、人生において相当な長時間を費やす場となります。
また人生って一度しか経験できないものなので、それをテキトーに生きるつもりなど毛頭ありません。
自分のことを仕事ができるエンジニアだとはこれっぽっちも思ってはいないものの、モノヅクリに関する熱意というのはかなり強い方だと思っていまして。
やる以上はちゃんとやる、やる以上はしっかりやる、そうでないと会社に、ひいてはエンドユーザーに失礼だと思っています。
で、多分心理的安全性の場作りとか、円滑なコミュニケーションとか、保守性を踏まえたプロジェクト設計を意識したエンジニアって、うちに秘めたる熱意が強いヒトが多いよなと。
技術オタクみたいなタイプだと少しズレる印象があるのですが、過去の経験上そう思っていまして。
多分そういうタイプが会社を良い方向に変えていくんだろうなと、実際に会社を変えていく過程を何度か目にしてきました。
自身もフロントエンドプログラマーの傍ら、スクラムマスターとしてチームビルディングを行い、エンジニアリングマネージャーとして会社全体のカイゼン活動に熱を入れてきましたが。
その熱量に対し会社側が引いちゃってどうすんねんと、ロールの高い人が冷めちゃってて何がしたいの?と。
クールに振る舞うのは良いですが、本当にプロダクトを売り出して世の中にインパクトを与えたいのか?と。
やる以上は本気でやる、当然のことだと思うのですが、マイノリティのようでさみしい限りです。
会社としてのロードマップがどれくらい明確になっているのか、そこに具体性がどれほどあって説得力が付随しているか。
本気度が強ければ、必然的に多くの人がついてくると思います。
自社開発だから良い、ではない
自社開発と比べると、やはり SES や受託開発は少し厳しい印象があります。
とくに高い技術力を持ったエンジニアや、高いコミュニケーション能力を持ったエンジニアであれば、裁量が存在しないのはかなり厳しいのかなと。
エンジニアは『こうしたい!』とか『こうあるべきだ!』という議論を行いたい生き物であり、同時に選択肢が制限されることを嫌う生き物でもあります。
冷静に考えると、エンジニアがそういう考え方を持てない場作りを行えば行うほどトップダウンな組織になっていくわけであって。
それなら最初から考えることを放棄したイエスマンを採用すれば良いだけの話なんですよね、個人的にそれが悪いことだとも思いません。
ただ技術力が高いエンジニアの採用となってくるとそうはいきません。
ベンチャー系の自社開発となってくると、何が正しいのか、どうすればスムーズにことが運ぶのか。
資金や体力にタイムリミットがある以上、ボトムアップも非常に重要です。
で、やはりできるエンジニアはそういう現場を求めがちです、そこに働きがいを感じるのは当然ですね。
だからこそ、自社開発だからと余裕を漕いていてはいけません、裁量が大きいことは悪いことではないわけで、年収以上の高い価値を発揮してくれるはずです。
理念よりも、具体的な課題への向き合い方
最近はミッションやバリューを強く押し出している会社が増えているなという印象ですが。
個人的に、企業理念はロードマップから自然と生まれるものであり、結果論でしかないと思っています。
「うちではこういうミッションを掲げています!」と言われると、いやまったく悪いことではないのですが。
ミッションやバリューへの共感というのは比較的曖昧で、どちらかといえば危なっかしい方針だよなというのが個人的な考えでして。
その実現のために具体的にどう実践しているのかが重要であり、その行動に賛同できるかどうかのほうが重要かなと思います。
AI 時代のエンジニアに求められるのは創造性と判断力
AI の導入がとかく遅い日本ですら、エンジニアは AI を使いこなせることが前提となりつつあります。
AI によって開発速度が上がり、プロダクトの質も向上し、エンジニア自体の需要はどんどん下がりつつあります。
にも関わらず会社がエンジニアを必要とする理由、これはコーディングのできるできないではなく、最適化されたモノヅクリと正しいエビデンスを持ち合わせているかどうかにシフトしつつあります。
つまりプロダクト自体の創造性や拡張性、プロジェクトに対する意思決定、チームビルディングなどはまだ AI では完全に代替できず、おそらく今後もエンジニアによる手動エンジニアリングが必要だと思われます。
結果として、広く浅い知識のエンジニアはどんどん淘汰され、深く狭い知識のエンジニア、つまり部分的なスコープに強いスペシャリストが生き残っていくだろうなと。
裏を返せば、会社としてもそういったエンジニアのみが必要とされていくはずであり、エンジニアとしてそういった方向にロードマップを引いていきたいはずです。
そういった場を提供できるのかどうか、未来を見据えた展開が採用にも求められつつあると思います。
スクラム開発は前提だが形骸化していないか
最近は本当にアジャイルやスクラムといった言葉が軽く使われているなと思います。
とくに採用の場で何も理解していない人事が「うちではアジャイル開発を採用しておりー」と平然と言ってきます。
今更ウォーターフォールについて触れる気はありませんが、アジャイルはアジャイルで正しく認識できているヒトがあまりにも少なすぎます。
なぜ現場で開発速度が上がらないのか、スクラムが全てだと言うつもりはありませんが、正しい開発体制を理解しているエンジニアが存在していないというのは非常に大きな要因の一つです。
エンジニアの出社やリモートに関する争点もそこだよなと思っていまして、今どきフル出社な現場でできるエンジニアが集まるわけがありません。
スクラムを前提とすると週 2 出社程度が限界ラインだと思っています(というか週 2 でも厳しい)、体制上それ以上の出社はまったく必要ないわけで。
開発メンバーがきちんとスクラムの理念に則って行動できればフルリモートも余裕なはずです、事実とある過去の現場でスクラムマスターを務めた際は何の問題もなく回せました。
数年前と比べてもこれだけ技術的な革新があったにも関わらず、未だにフル出社至上主義は、やはり最適化を命題とするエンジニアとしてはまったく理解できません。
大切なのは物理的にコミュニケーションを行うことではなく、柔軟に適応されるカルチャー創りなはずです。
改めてアジャイルを、ひいてはスクラムを理解しそれをチームに落とし込む、それすらできないようでは今の時代に前進なんて夢のまた夢かなと。
IPO は手段であり目的ではない
たまにベンチャー企業とお話すると「とりあえず IPO を目指しています」という言葉を伺います。
が、IPO って手段であって目的ではないはずです、別に IPO を果たしたからどうということもないですし。
そもそも会社が IPO を果たすかどうかなんて興味がないエンジニアのほうが多数なんじゃないでしょうか、自分もそれを聞いて「あ、そうなんですねー」としか思いません。
IPO を果たしてその先に何を実現したいのか、そこで得た資金をどう回すのか、そこで得た地位をどう活かすのか、そっちのほうが 100 倍興味があるわけで。
本気で何かしらインパクトを残そうとしている経営者であれば、やはりロードマップの途中に IPO が存在しているにほかならないと思います。
IPO を目指している事自体を魅力のように語ってしまっている時点で少しズレているなと、そう思わざるを得ないよなと思います。
採用とは“選ばれる行為”である
あまり大きな声で言うのは少しはばかられるのですが、採用側は選ばれる側のスタンスでいることが非常に重要だと思います。
例えば Wantedly のような媒体でスカウトのメッセージを送る際、送る相手はお客様なわけです。
もしその相手に本当に参画してほしいと思っているのであれば、必然的に汎用的なメッセージにはならないよなと強く思います。
自分の場合、たまに面接で技術的なことを聞かれるのですが、自身の技術面は OSS とブログである程度公開しています。
また人間性や考え方の面についてもブログに公開しているわけで、その上できちんと対面していただきたいと常々思っています。
もちろん自分も面接に挑む際は面接をしていただく会社のことを綿密に調べますし、関わりそうな方のプロフィールをはじめとした情報収集は毎回必ず行っています。
というかこれって当然のことであって、どっちが偉いどっちが偉くないのような話ではないわけで。
会社の仲間になってもらえるかどうか、会社の仲間になれるかどうか、ただそれだけの話だと思うのですが。
採用活動とは「会社をプレゼンする場」であって、それ以上でもそれ以下でもありません。
そこを履き違えてしまうと、後々不利益を被るのは明白だよなーと思います。
平均勤続年数や単価を誇っても刺さらない
ごくまれに「うちは平均勤続年数が高いです!」と誇られてくる会社がいるのですが。
個人的には『なんでそんなマイナスプロモーションをしてくるんだ…?』と思っています。
そもそも平均勤続年数が長いことは良いことではありません、GAFAM を見れば一目瞭然ですね。
できるエンジニアは常に成長と変革を求めます、常に渇望している生き物です。
常に渇望しているからこそやり遂げたら次の現場へ移る、なんだかんだやりがいに生きるものなのです。
長年同じメンバーで構成された現場で新鮮な何が得られるのか、果たして大きく疑問です。
ということで久しぶりに超長文のエントリーになりました。
自分らしさ全開の記事になったと思いつつ、まだまだ話せるネタはいっぱいあります。
自分の考え方や姿勢に少しでも共感するところがありましたら、コンタクトフォームよりご連絡いただけますと幸いです。